Ilmm

Milan Design Week 2025 Report

今年のミラノデザインウィークを訪れた『 Ilmm』編集チームのプライベートな写真で構成したリポート。Ilmmは、これからのシーンでさらに広く活躍しそうなデザイナーやブランドに出会える場として、またその動向の最新形を体感できる場として、ミラノデザインウィークを捉えている。きわめて直感的で主観的な内容は、Ilmmが本来志向しているものでもある。

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6AM / TWO-FOLD SILENCE 

ガラスを使ったオブジェ、家具、照明器具などを手がけているデザインスタジオ、6AM。拠点はミラノだが、制作はガラスの本場であるムラーノ島で行っている。今回の個展「TWO-FOLD SILENCE」は、1930年代竣工の公衆浴場のビルの地下にある未完成のシャワー用フロアを会場とし、新作やモックアップを含む約40点の作品をレイアウトした。似たようなシャワー用の小部屋が延々と続く薄暗い空間は、油断していると突然現れる6AMの作品にハッとさせられ、まるでホーンテッドハウス。ただし1点1点がどれも研ぎ澄まされていてオブジェクトとしてすばらしい。「EXIT」の赤いサインも彼らの作品。サイトスペシフィックなインスタレーション形式の展示としては、今年のNo.1だったのでは。

24HOURS

ミラノのコンサルティングファーム、Simple Flairの監修によりクリエイティブを支援する「RIVIERA」。イタリアの家具ブランドLAPALMAのショールームに併設されたこのスペースは、2022年にオープンして以来、MDWでも注目の展示を開催している。今回の展示はカナダ・トロントをベースに活動するデザイナーJamie WolfondとSimple Flairのキュレーションによる「24HOURS」。時間の直線性とその絶え間ない流れをテーマに、デザイナー24組による様々な壁掛け時計が展示された。日本から参加した藤城成貴の作品「Time by Crayon」は、クレヨンボールがフレーム上を転がることで線を描き続ける。時間ともにその線は太くなり、クレヨンは削れていずれ無くなるというユニークな作品。また会場でいちばん目を引いたのが今回のキュレーションも務めたJamie Wolfondの「Final Sale」。日時が印字されたレシートが1分間毎に発行され床に落ち続ける。時間の経過とともに山のようにレシートが積もっていくというもので、消費され続ける社会を連想させた。

10 CORSO COMO

ミラノのセレクトショップ、10 Corso Comoの昨年から進行しているリノベーションは、『Ilmm #2』で取り上げた2050+が担当している。20世紀初頭の工業的な建築の特徴を生かしつつ、モジュール式の可動壁や家具を導入し、柔軟で多目的な空間をつくり上げていた。ミニマルなデザインにより、展示される商品やアートが引き立つ空間になっている。最上階のギャラリーでは、ベルギーのArno Declercqによる個展を開催。木材、金属、ブロンズなどの素材を用いたブルータリズム的な彫刻家具が展示された。古代美術や20世紀初頭のデザイン、バンカー建築からインスピレーションを得た作品群が空間と素材の対話を生み出していた。

ALCOVA

昨年、ミラノ市街を離れてヴァレードの2会場で展示を行ったALCOVAは、さらに2つの会場を加えて規模を拡大。インディペンデントなデザイナーによる自主的なエキシビションが目立った今年だが、クオリティも集客力もやはりALCOVAは圧倒的優位にある。オズヴァルド・ボルサーニ邸では、Faye Toogood × NoritakeNick Ross × Contem Furnitureだけでなく、日本の小関隆一AtMaも十分注目されていた。キッチンで共同展示した、アゼルバイジャンのCHELEBIとスペインのWorn Studioもクラフトのよさが際立った。

APARTAMENTO BOOKSHOP

Apartamento』は2年ぶりにミラノの書店Commerceを占拠し、1週間のポップアップストア「Apartamento Bookshop」を開催。ロサンゼルス出身のアーティストであり、メンフィスグループの創設メンバーだったPeter Shireを迎え、『Apartamento』から発刊されたばかりの写真集『Peter Shire’s Grand Tour』の発売記念展示を行った。この写真集はメンフィスの形成期をピーターの視点で捉えたスナップショットを集めたもの。この刊行イベントに合わせて1982年にデザインされたラウンジチェアBEL AIRが中央に配置され、メンフィスの貴重な印刷物の数々が特別に展示販売された。Peter Shireは現在78歳。コンテンポラリーデザインの多くにポストモダニズム的要素が見られることもあり、彼の作品は新たな現代の価値を纏って受け入れられるように感じる。

BOON_EDITIONS × A-N-D

BOON_EDITIONSがミラノデザインウィークで開催した展示会は、旧銀行施設という歴史的空間を舞台に、アート、コレクティブル、デザインが融合した極めて独創的な体験を提供しました。A-N-Dの革新的な照明作品とBOON_EDITIONSの彫刻的な家具群が共鳴し、空間全体がまるでインスタレーションアートのように変容。さらにBOON_ROOM Galleryの国際的アーティストによる多彩な作品が加わり、訪れる人々に過去と未来、感性と技術が交差するインスピレーションの場を創出していた。

CAPSULE PLAZA

デザイン建築誌『Capsule』のチームが手がけるCapsule Plazaは、その編集力があらゆるキュレーションに生かされている。Yrjo Kukkapuroを復刻したスウェーデンのHem、Willo PerronやNM3を起用したNOGA、Konstantin Grcicによる新ブランド25kg、Philippe MalouinとコラボレーションしたスイスのLEHNI、昨年同様に強力だったノルウェーのHydroなど。日本からはカリモクのMASKNSが出展してラウンジスペースを設えた。同時に発売された『Capsule』最新号は、NM3によるステンレスカバーのリミテッドエディションも用意された。

CASA ORNELLA

Casa Ornellaはデザインショールームを兼ねながら、ブランド、業界関係者、そしてデザイナーにとって特別な体験へと昇華し常に変化し続けるダイナミックなハブスペース。MDWの開催ごとに、創設者であるインテリアデザイナーのMaria Vittoria Pagginiが室内を一新させ、特別な空間プロジェクトを一般公開している。3回目の今年のタイトルは「Mediterranea」。地中海の豊かさからインスピレーションを得たもので、静寂とウェルビーイングのオアシスをテーマに、都会にいながらエスケープを体験できる家としてコーディネートした。スタッフもその物語の土地に暮らす住人として振る舞い、歌いながらコーヒーをサービスする演出など、都会では非日常的な設定ながらも来訪者が自然に受け入れられるような雰囲気。どこか空間づくりを超えたデザインの力を感じた。今回が初訪問だが、例年評価が高かったせいか、アポイント制にもかかわらず長蛇の列で大盛況だった。

CONVEY

3年目を迎えたCONVEYは、Capsule Plazaはじめ多くの展示でにぎわったポルタ・ヴェネツィア地区に会場を移して開催。インディペンデントなブランドやデザイナーを含む出展者の幅広さがCONVEYの特徴で、それぞれが厳選したアイテムを展示している印象があり、似たようなイベントの中では最も洗練されている。大理石の端材をレジンで固めたシェルフシステムはパリのPayam Askarによるもの。2色のレジンを混ぜたシェルフはロッテルダムのForever Studio。緑青で覆われたような椅子はGuan Lee / Grymsdyke FarmのRunning。こうしたコレクティブル系のデザインの他にも、Vero、Campeggi、Sem Milanoなどの家具ブランドが参加。また石材メーカーのMarimarは、大理石のカウンターで朝食を振る舞うサービスを行なった。

COMUNE

COMUNEは公募で集まった多分野のデザイナーのグループ展で、過去2回はポーランドで開催され、今回はミラノの設計事務所SUPERSPATIALとコラボレーションしてMDWに初参加。ディテールの精巧さと、いい意味で雑なスタイリングのミックスがよかった。今年、ポーランドはFederica Salaのキュレーションで「ROMANTIC BRUTALISM」という大規模な企画展を行なったほか、ALCOVAでのJorge Suárez-KilziMarcin Rusak、サローネサテリテで受賞したMaria Gilなどいろんな場所で存在感を示していた。

DEDAR / Weaving Anni Albers

バウハウスやブラックマウンテンカレッジといった伝説的な学校の教師であり、画家ジョセフ・アルバースの妻としても知られるアニ・アルバース。その最も代表的な仕事であるテキスタイルデザインをイタリアのDEDARが復刻。「Weaving Anni Albers」展は歴史的資料も織り交ぜながら、その5種類のテキスタイルを体感させる構成になっていた。もうひとつの見どころは会場のロケーションで、ミラノで最も有名な近代高層建築のひとつであるトーレ・ヴェラスカの高層階。テキスタイルよりも窓からの眺めに気を取られる感がなくはなかったが、それも含めて記憶に刻まれる催しだった。会場構成はDWA Design Studioによるもの。

STRATA

Middernacht & AlexanderTim VrankenLinde Freya Tangelderというベルギー出身の3組のデザイナーによる展覧会。Destroyers/Buildersとして活動するTangelderは、近年発表した一連の作品とともに新作チェアを展開。それぞれの作品は、シンプルさと荒々しさに焦点を当て、彫刻を施した深みのある色合いの漆塗りの木、ガラス、アルミニウム、レザーなど、素材のレイヤーに素朴でありながら繊細な表現を見事に調和させた。彼女のデザインは、荒削りとも言える素地のマテリアルに対し、職人の手による技と工業技術を融合されるのがひとつの特徴。「Reworked Chair」という名を持つ新作チェアは、建築的要素、素材、あるいは建築的な技術といった普遍的なインスピレーションに基づき、ブラッシュ仕上げのアルミフレーム、コットンクッション、そしてホワイトブロンズの脚先のグライドが、彼女らしい佇まいを醸し出している。研磨や塗装といった手作業によって現代と古代のディテールが融合し、建築の断片を現代的に解釈している。

DEORON

デザインキュレーションプラットフォーム「DEORON」の初のフィジカル展示。「ELEVATING OBJECTS」と題して、40カ国以上のデザイナーやブランドによるアイテムを揃えた。インダストリアルな要素とエレガントなフォルム、ヴィンテージとアヴァンギャルドの融合など、対照的な要素を組み合わせたキュレーションが興味深い。デザイナーの知名度に関係なく、オブジェクトの質と表現力を基準に選定された実験的なデザインの数々の対比が面白かった。また今年はDEORONはじめ多くの会場で、巨大なスピーカーとともに音と関連するプロダクトがあるのが目についた。

JONATHAN MUECKE

Jonathan Mueckeは、Knollとの初の商業コラボレーションとして「Muecke Wood Collection」を発表。素材の本質と構造の明快さを追求するMueckeの美学に目を奪われた。木材の温かみと普遍性を生かし、円柱形の木製ダウエルを用いた構造が特徴的。各パーツはほぞで接合され、ディテールの美しさを際立たせている。Mueckeは、「物質性はすべてのプロジェクトの出発点であり、繰り返しは明快さを生む」と述べていて、この考え方がデザイン全体に貫かれている。 またZAZA’ GALLERY MILANOでは、カーボンファイバーを使用した実験的な作品を展示。これらの作品は家具、建築、彫刻の境界を曖昧にする独自のアプローチが反映されている。ミニマルでありながらも深い思索を促す作品群に、今年見た様々なデザイナーのなかでも特に興味が湧いた。

LAILA GOHAR

『Ilmm #1』でロングインタビューを掲載したニューヨークのアーティストLaila Goharは、2会場でまったく異なるインスタレーションを展開した。開催前から異例のコラボレーションとして話題だったフィンランドのマリメッコとの展示は、巨大な寝室をテーマにしたインスタレーション。睡眠、読書、空想、会話など、ベッドの中で起こる安らぎに満ちながら創造的な行為を、厳選されたテキスタイル、テーブルウェア、パジャマを通して遊び心を探求した。またもうひとつの展示は、姉のナディア・ゴハーとともに、クリエイティブエージェンシーPSの創設者ミケーラ・ペリッツァーリの自宅を、ゴハー・ワールドの世界観でスタイリングしたアパートメントでの展示。特徴的な食材を使ったインスタレーションとともに、テーブルウェアラインFOREVER GOHARの新作を展開した。今年はこのようなアパートメントでの展示が各所で見られ、生活空間そのものをブランドやデザイナーの世界観で彩る展示が多い印象だった。

MICHAEL ANASTASSIADES

ジャクリーヌ・ヴォドス&ブルーノ・ダネーゼ財団内で大規模な個展を行ったマイケル・アナスタシアデス。和紙を用いた三角形のシンプルなモジュールを組み合わせてつくられた照明や、ジャグリングを想起させるような照明が会場内に設置され、来場者の目を楽しませていた。またFLOSでは、光るガラスのチューブを連結させ、球体を吊り下げることもできる「Linked」を発表。シンプルで、とても静かでありながら、人の心を魅了する美しいデザインが印象的だった。

NATALIA CRIADO

コロンビア出身のデザイナーNatalia Criadoは、ミラノでインダストリアルデザインを学んだ後に自身のブランドを設立。母国の伝統から得たインスピレーションと現代の洗練された技術や感性を融合させ、様々なスタイルを折衷した軽やかかつエレガントなデザインを手がけている。昨年のAlcovaで展示したシルバー仕上げのテーブルウェアが多方面から注目され、同コレクションをホームアクセサリーへと展開してクリエイティブの枠を広げている。今回はミラノ拠点のファッションブランドTaller Marmoとのコラボレーションを同ブランドのブティックで発表。Taller Marmoのシグネチャーであるフリンジからインスピレーションを得たマルガリータグラスとアイスバスケットのカクテルセット「セレブレーションキット」の展示とともに、一連の彼女の作品を展開。ファッションとテーブルウェアの融合が、彼女のエレガントなデザインをより引き立たせていた。

NILUFAR DEPOT

Nilufar Depotでは、同ギャラリーの創設者であるNina YasharのキュレーションによるNilufar Depot開設10周年を記念した特別展示「Silver Lining」が開催された。この展覧会は金属という素材にフォーカスし、多数のオブジェクトを展開。亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、ステンレス鋼板など、幅広い技法を駆使して素材の多様性を際立たせ、異なる時代、芸術運動、そしてデザイン言語をひとつのまとまりのあるナラティブの下に融合した。特にアルミニウムは彼女にとってリサーチの始まりからとても特別で、その魅力と魅惑的な性質をもつ素材の可能性に挑戦するセクションには特に力を入れたという。ギャラリーで扱う1970年代の厳選されたヴィンテージ作品に加え、Audrey Large、Supaform、studioutte、Flavie Audiといったデザイナーによる新作を展開。没入型の舞台美術とも言える展示空間の会場を手掛けたのはFosbury Architecture。狭く迷路のような空間を来訪者たちが彷徨い、人やオブジェと交流するという構想で生まれた展示構成は、鏡面の壁の中にピンクとバーガンディのシャギーなラグを敷き詰め、その温かみと展示されている金属製のオブジェの冷たく反射する表面とのコントラストをアバンギャルドに演出した。

NM3, NICK ROSS

 『Ilmm #0』で紹介したNM3と『Ilmm #1』で紹介したNick Rossは、「Material Conversation」と題し、NM3のショールームでコラボレーション展示を開催。Nick Rossは様々な樹種の木材で製作したチェアシリーズを、NM3は9種類の異なる仕上げのコンソールを、それぞれ並列させて直線状に並べ、反復と素材のコントラストをベースに、質感、構造、また双方の表層の緊迫感といった要素に着目したインスタレーションを展開。木と金属という異なるマテリアルを使い、ミニマルなデザインを手がける注目の存在である両者。そのコラボレーションは、素材と仕上げの際立ったコントラストと完璧とも言えるほどの造形的な調和を生み出していた。

OBJECTS OF COMMON INTERESTS - Marsèll

ギリシャにルーツをもつNY在住のデザインデュオ、Objects of Common InterestはMarsèllのミラノ旗艦店で「Adaptive Ground」と題した展示を開催。素材と空間の相互作用を探求した、革新的な照明や家具が並んだ。ソリッドな空間に置かれた柔らかなフォルムの作品群が印象的だった。

OPENHOUSE

バルセロナ発のライフスタイルマガジン『Openhouse』のエキシビション「THE SECRET IN THEIR EYES」は、Cadogan Gelleryで開催された。Openhouseがキュレーションしたデザイナーやブランドの作品、また本展をサポートするMango Homeのホームコレクションが展示され、ウッド、金属、陶器やコルクなど主に無垢の素材を用いた作品が並ぶ空間では、Openhouse独特の世界観が体感できた。リビングシーンの床に近いセッティングのスタイリングはジャパンディを思わせ、今回のMDWの至る所でみかけたJorge Suarez-Kilziの照明やベルギーを拠点に活動するデザイナーCedric Etienneのテーブルなどが印象的だった。壁面の作品はロンドンのアーティスト、Sam Lockによるもの。今回初めて訪れたCadogan Gelleryは、広い中庭を囲むとても心地よい光の入る空間で、通常扱っているアートコレクションもすばらしい。

PRISON TIMES

ミラノ中央駅エリアで展示スペースを運営し、都市、建築、デザインをテーマにしたリサーチを行うDROPCITY。「PRISON TIMES」展はその活動の一環として企画された大規模なエキシビション。世界各地の刑務所で実際に使われている家具、建具、寝具、食器、衛生機器などを、使用する時間帯ごとに分類して配置した。実用性や耐久性が重視されるだけでなく、自傷や他者への危害を防ぐため、独特の形態をしたものが多い。プロダクトデザインは一般に、ユーザーに利便性や快適さをもたらすことを目的にしている。それに対してここに集められたものは根本的に意図が異なり、必要悪のデザインと呼べるかもしれない。近年の異常なほど祝祭感のあるMDWへの強烈なカウンターにも思えた。

 

FLOS 

エウロルーチェでのFLOSの展示は、プロダクトとその背景にあるプロセスにスポットを当てながら新しいコレクションを発表。Formafantasmaによる「The Light of the Mind」と題されたインスタレーションは、各デザイナーの新作の背景にある思考を探求するビデオシリーズを個々の展示室で投影した。フィルムで撮影した2分ほどの映像は、制作過程や資料の模様などを紹介。抽象的なアイデアやインスピレーションが具体的なデザインへとどのように変化していくのかを明らかにし、来場者が思考とデザインの特性について感覚的にも触れる空間構成となっていた。極限までシンプルな空間でありながらも、ブースの緻密な設計や映像の完成度の高さが伝わる会場構成からFormafantasmaの凄みを感じざるをえない。新作コレクションはKonstantin Grcic、Ronan Bouroullec、Michael Anastassiades、Piero Lissoni、Erwan Bouroullec、Tobia Scarpa、Formafantasmaの7組によるもので、FLOSにとっても馴染みの深いラインナップ。とはいえすべてがデザイン的にも技術的にも洗練され、引き続き変わらない革新性と群を抜いた圧巻さを放っていた。 

RONAN BOUROULLEC

WonderGlassでは、「Poetica」と題してガラスの可能性を探究するインスタレーションを開催。写真はロナンが手がけた鋳造ガラスとセラミックの花器。淡い色をつけた厚みのあるガラスが、周囲の環境と美しいコントラストをつくりだしていた。FLOSからはシャボン玉を連想させる「Luce Sferica 」を発表。手吹きガラスの球体から放たれる、柔らかく幻想的な光が美しい照明だった。またMagisの新作はテーブル「Ancora」。建築家、ピエル・ルイジ・ネルヴィの構造美と、アンジェロ・マンジャロッティの官能的なデザインを融合するようなコレクション。機能をそなえた彫刻的なフォルム。 素材の持つ魅力を、詩的な作品へ昇華させたロナンらしいクリエイションが光っている。

REDDUO 

仕事もプライベートでもパートナーのFabiola Di VirgilioとAndrea RossoによるホームブランドRedDuo。2022年設立で、テキスタイル、ラグ、陶器などのプロダクトを展開しながら、住宅やホテルのインテリアデザインも手がけている。今年、彼らはミラノのポルタヴェネツィア地区に新しいホームスタジオ「Casa RedDuo」をオープンさせ、MDWに合わせてアポイントメント制の内覧イベントを開催。あらゆる側面は彼らの明確なビジョンを伝える重要な要素となり、家具、内装、壁面パネル、照明から電気スイッチに至るまで、彼らの感性を体感できる空間になっていた。建物の既存の要素を生かしたリノベーションであり、感性に満ちあふれた素材と加工や色使いで、リファレンスとした70年代のデザインテイストから現代に至るまでのタイムレスな雰囲気を醸し出している。最近、グローバルに露出が増えたように感じるDEDARのテキスタイルや、Very Simple Kitchenとコラボレーションしたキッチンカウンター、ベルギーのJOVとデザインしたラグ、また近年発表されたばかりのコンテンポラリーなプロダクトが随所に使われ、家具のレイアウトやコーディネートにも隙がないインテリアだった。 

SAM CHERMAYEFF 

ベルリン在住の建築家、Sam ChermayeffがDropcityで行なった「Boxes」展はAndrea Caputo, Gonzalez Haase AAS, Jonathan Muecke, Sabine Marcelis, Arquitectura-G, Konstantin Grcic らをはじめ約40組が参加し、それぞれに箱を出品。箱の解釈はさまざまなので、機能や素材も多様、箱の形をしていないものも多かった。散漫に見えるが、その散漫さも決して悪くない。名前を聞いたことのないデザイナーが多く参加していたのもよかった。またミラノの地下鉄をモチーフに、そのパーツやディテールを引用した家具コレクションもSam Chermayeffによるもの。こちらは「SOUVENIR」展で発表された。 

TACCHINI

新しいデザイナーの起用、アーカイブからの復刻、そしてそれらをミックスしたプレゼンテーション、すべてにおいて魅力的なTacchini。ソファを中心とするFaye Toogoodの新作コレクション「BREAD and BUTTER」、トビア&アフラ・スカルパの名作椅子「AFRICA」の復刻、OBJECTS OF COMMON INTERESTSを起用したアクセサリー「TACT & TRACE」「REFRACT」、Michael Anastassiadesの新作椅子など注目作を揃えた。ブレラに新しくオープンしたショールームやフィエラでのブースは、昨年同様にCharlotte de La Grandièreがシノグラフィを担当。彼女がディレクションするフリーペーパー「T’JOURNAL」も必携。

HUMANRACE 

ファレル・ウィリアムスが手がけるスキンケアブランド「Humanrace」がMDWに初参加。オーガニック食材やスキンケア用品を取り扱うTerroir Milanoでは、Humanraceの限定商品を販売するポップアップショップが行われ注目を集めていた。またCapsule Plazaでも、スイスのモジュラーファニチャーブランドUSMとコラボレーションしてバスルームの展示を行なった。

VERO

Veroは空間デザインを手がけるLevel ProjectのPasquale Apollonioが創設し、 Simple FlairのSimona FlaccoとRiccardo Crennaがクリエイティブディレクターを務めるミラノ発のインディペンデントな家具ブランド。今年で創設4年目を迎えた。独自の視点で若く才能のあるデザイナーを起用し、メイド・イン・イタリーをベースに家具やアクセサリーを生産。マスプロダクションとオルタナティブなデザインの間を埋めるような立ち位置で、実験的かつユニークなプロダクトを世に放っている。今回のMDWではいくつかのイベントでプロダクトを展開するとともに、自社ショールームでは創設時から協働しているローマ出身でミラノをベースに活動するFederica Elmoの新作が披露された。フラワーベース兼食器の陶器コレクションは、異なる形状の3点を重ね組み合わせて使用することができ、意外性のある視覚的な構成を生み出してくれる。ぼってりとした分厚い液体のような有機的な形状は彼女の特徴的なデザインで、そのほかの製品にも同様のフォルムが見られる。

VERY SIMPLE: KITCHEN

シンプルでカラフルな金属製のキッチンやプロダクトを提案するイタリアのブランドVery Simple: Kitchen は、ポーランドの家具ブランドnoo.maと協同し、デザイン、食文化と融合させたダイナミックなポップアップ「Very Simple: Pizzeria」を開催。デザインへの愛、シンプルさへの情熱、そこにピッツァを組み合わせたらどうなるか? という着想から生まれたユニークなポップアップは、クリエイティブなエリアであるポルタヴェネツィアの中心に位置するエウスタチ通り沿いのBERBERE Pizzeriaで開催された。noo.maによるテーブル、ベンチ、椅子、スツール、またVery Simple Kitchenによる2つのキッチンモジュールが設置され、ミニマルなステンレスプレートやTシャツなど限定グッズも販売された。ピッツァリアで食事を楽しみながらプロダクトに触れられるイベントは、デザインと街をシームレスに繋げるとともに、食べることのもつ活気と食欲をそそる背景にどのようにデザインが関係するかを感じさせてくれた。